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~「一人前」を、見える形にする~ 自社認定制度「ゲゼレ」の話

アーティストリーには「ゲゼレ認定」という独自の制度があります。名前はドイツの職人資格から借りたもの。運用を始めて、約10年になります。なぜ一つの家具会社が、自分たちで職人の認定制度をつくったのか。制度を設計し、いまも運用を担う能力開発室の佐藤さんに聞きました。


そもそも「ゲゼレ認定」とは、どういう制度なんですか

評価制度ではありますが、対象は新人と若手です。わかりやすく言うと、『入社した人が最初に目指すべき到達点』。基本的に「一人前」と言われるものが、ゲゼレです。

シルバーゲゼレとゴールドゲゼレの2段階があって、その上に主任、さらにマイスターという階層があります。ゲゼレまでは、入社した人はまず目指そうね、というルールになっています。ただしマイスターは違って、管理者としてのスキルも必要になるので、全員が進む道ではありません。

対象は工房の職人と、5軸のオペレーターです。シルバー取得の目安は、個人差がかなり大きいですが、入社してだいたい3年。ゴールドはそこから比較的早く、翌年に到達する人もいます。

なぜ、自社で認定制度をつくろうと思ったのですか

私は前職でもっと小さな家具屋にいました。職人が4人か5人という規模です。そこからアーティストリーに来て、一番違ったのが人数の多さでした。

人数が多いと、若手に回ってくる仕事の密度が変わるんです。できる人がたくさんいるから、若い子がやらなくても先輩がやってしまう。最初は棚板、よくて扉の製作。もちろんそれはすごく大事な基本の部分なんですが、次のステップに行くまでが、他社に比べてどうしても遅くなる。人数が多いという、うちの強みの裏側にあるデメリットですね。

そうすると何が起きるか。「自分は成長できているんだろうか」と思い始めるんです。似たような仕事ばかりで成長の実感がない、やりがいがない。それで3年前後で辞めてしまう。これは正直、いまも課題として残っています。

社長ともよく話していました。社長は一人で会社を始めて、2人3人と増やしてきた人なので、経営者目線でも「若手が早く成長する方法はないか」という問題意識がある。その議論の中から出てきたのが、この制度です。

能力開発室:佐藤さん

経験を積ませればいい、という話ではなかったのですか

そこが難しいところで。経験に勝るものはないのは確かなんですが、現実には、仕事は確実にできる人に出したいんです。製作担当者側からすれば当然ですよね。「それ、できるの?」「責任取れるの?」となって、若手にはなかなか回ってこない。

だったら、強制的に若手に仕事を出す仕組みをつくろうと。そこから始まったのが「チャレンジ」という制度で、ゲゼレの土台になっています。

「チャレンジ」とは、どういうものですか

技術テストのようなものを別途やるわけではありません。あくまで普段の仕事です。

普段の仕事の打ち合わせで、「今回、これチャレンジにするか」と決めるだけです。書類の上では何も変わりません。「チャレンジ用」と印がつくだけ。

でも、やることは変わります。いままで棚板づくりしかやっていなかった子が、家具を一つまるごとやってみる。これまで先輩が本体をつくっていて自分は手伝いだったところを、自分が頭になって責任を持つ。当然、結果も問われます。だから必死でやるんですよ。

それを10回クリアする。しかも、求められる水準は普段より一段高く設定してあります。いままでどおりの仕事を10回こなしただけではダメで、少し背伸びしないと届かない。半期の間に10回なので、届かなければ仕切り直しです。現在挑戦中の若手も、実際には1年半ほどかかっています。

制度がなかった頃、職人はどう評価されていたのですか

この業界は、そもそも評価の仕組みがほとんどないんです。早くできたかどうか、くらいで、何も証拠が残らない。

誰がどう判定するのかも決まっていなかった。結局、年齢とか在籍年数とか、「あの人は仕事が早いよね」というなんとなくの共通認識で位置づけが決まっていく。どこの会社でもそうだと思いますが、曖昧でした。

だから、目指すべき具体的な姿をしっかり設定して、基準をつくって、そこをクリアしたら一人前と言われる。その見える化が必要だよね、というところから生まれた制度です。

なぜ「ゲゼレ」という名前なのですか

職人の資格制度といえば、まずドイツのマイスターが浮かびますよね。それで調べていったら、その手前にゲゼレという存在があることを知ったんです。

見た瞬間に、ちょうどいいネーミングだなと思いました。

厳密に言えば、ドイツのゲゼレとうちの制度はまったく違うものです。向こうは国家資格で、何年もの職業訓練を経て試験を受けるものですから。ただ、「職人として、ひとまず一人前と認められる」という点は共通している。そこはドンピシャだと思いました。

何を評価するのですか

技術力、人間力、経営力の3領域です。

技術力はチャレンジの結果で見ます。経営力は筆記試験で、テキストも自社でつくっています。それを試験までに勉強してもらって、そこから出題する。人間力は成長計画書などを使って見ていきます。過去1年間に事前報告のない遅刻が3回以下であることといった基準もあります。ゴールドではさらに厳しい基準に加えて、指定された課題に対するレポートの提出も必要です。

受験するには、一定の技術水準に達していることに加えて、所属する工房の課長が「ふさわしい」と認めることが必要です。実力だけの話ではないので。ただしこれはあくまで受験資格で、合格基準とは別ものです。

誰が審査するのですか

これは10年やってきて、何度も変えてきました。

最初はかなり大がかりで、横綱審議会みたいなことをやっていたんです。各工房の課長たちが集まって、私が資料を集めて説明して、ああだこうだと議論する。

ただ、人によってその人への見方にばらつきが出るんですよね。いまは結果がすべてという方針にしています。数字は公平に出てしまうので。挑戦している本人の所属長が状況を管理して、能力開発室に報告してもらい、この結果なら問題ないですね、という形です。

10年やってきて、うまくいかなかったことはありますか

いろいろありましたよ。一番つらいのは、自分より年下の後輩が先に取ってしまって、自分はなかなか取れないというケースです。それで自信をなくして、退社につながったこともあります。

目に見える形で差が出てしまうというのは、この制度の宿命です。やると決めた以上、そういうことは想定できるので、こちら側にもそれなりの覚悟が要る。避けて通れない部分だと思っています。

もうひとつ課題があって、「若手の育成イコール、ゲゼレを取らせること」で思考停止してしまう面がある。本来これは、上司が部下を育てるために活用する仕組みなんです。制度に任せておけばいい、チャレンジをやらせておけばいい、となってしまうのは残念で。10年近く経ったので、そろそろブラッシュアップが必要だと感じています。

制度が生んだものは何ですか

いま挑戦している若手がいるんですが、苦労しながらも少しずつ成績が良くなってきていて、頑張っている姿を見ると、やっぱり「頑張れ」と思うんですよ。なんとか取らせてあげたいし、仕事を回してあげたいと思う。若手を応援する、育てようという風土をつくるという意味で、具体的な形があることには意味があります。

先輩にとっては、ある意味プレッシャーでもあります。「あなたの課の子は、いつまでかかっているんですか」「ちゃんと仕事を回しているんですか」と問われることになりますから。「チャレンジに出せる仕事がない」と言っても、「私はかき集めてきて取らせている」と返されてしまう。

いい話で言うと、先輩が若手の成長を実感できるんですよ。ある先輩が「佐藤さん、これ見てよ。すごくない?」と、自分の部下の仕事を見せに持ってきてくれたことがありました。親心みたいなものですよね。

あとは、正直に言えば危機感もあります。若手の子たちの仕事を見ていると「下手したら自分、やばいんじゃないか」と本気で思いますから。

ベテランの職人としての顔も持つ佐藤さん

[現在チャレンジに挑戦中の職人に聞きました]

いま取り組んでいる家具は、全部一人でやっています。やり方も、作り方も、自分で考える。製作渉外部の担当者と「こうしていいですか」「ああしていいですか」と相談しながら進めています。

目標があると、やっぱりやりがいが出ますね。

周りから「頑張れ」と声をかけてもらうことについては、プレッシャーというより、ありがたいという気持ちです。

この制度で、どんな職人を育てたいですか

自信をつけてほしい。それに尽きます。

先輩はよく「お前はもっとできるんだから自信を持てよ」と言うんですが、自信って、言われて持てるものじゃないんですよね。だからこちら側が工夫しないといけない。

理想は、与えられたものを淡々とこなすだけじゃなくて、「最近ちょっと物足りないので、もう少し難しいのをください」と言えるようになること。積極性というか、向上心ですね。難しい仕事をもらって、クリアして、さらに自信がつく。そうやって成長していく職人になってほしいと思っています。

そのために、曖昧なものを仕組みにして、基準をつくって、見える形にする。それはいろいろな面で大事なことだと思っています。


「一人前」という言葉は、どこの会社にもあります。ただ、それが何を指すのかを言葉にして、基準にして、誰の目にも見える形にしている会社は多くありません。ゲゼレ認定は、資格でも肩書きでもなく、若手に仕事を渡すための仕組みでした。10年近く運用してなお課題は残っていて、いまも形を変え続けています。

今回は制度をつくった側の話をお届けしました。では、受けた側には何が起きているのか。次回は、最年少でゲゼレ認定を取得した製造部の江口さんに話を聞きます。

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