挑 / Creative
6分で読める
和歌山県那智勝浦にあるお寺・大泰寺――ここには、意外にもサウナが併設されています。豊かな自然に囲まれ、五感を研ぎ澄ませて自分と自然の一体を感じられる特別な場所です。そんな全国でも珍しい「お寺サウナ」に関わったのが、株式会社アーティストリーの大西さんと、大泰寺の住職である西山さんにお話をお聞きしました。
大西: ある日、弊社の問い合わせフォームに「和歌山のお寺の住職です」というメールが届きました。メールでの問い合わせは珍しくお話を伺ったところ、住職は当初ほかの設計者に依頼していたものの提案に満足しておらず、以前弊社が手掛けた「組紐KOBE」を見て依頼をくださったんです。お寺の場所を調べると本州のほぼ最南端で、交通の懸念はありましたが、ホームページを見ると宿坊やオートキャンプ、テントサウナなども運営していて、とても現代的な取り組みをしているお寺だとわかりました。オンラインで打合せの前に、まずは現地視察しようと決めました。

大泰寺
大西: 住職の西山さんは若く、格式ばった雰囲気ではなく、現代的なお寺のあり方を真剣に考えている方でした。地元の工務店の社長とも会い、製材業から続く熱意あるチームであることがわかり、「このメンバーなら挑戦できる」と確信しました。遠方ゆえのリスクはありますが、地域に根ざした協力体制があるのが大きな後押しになりました。

現調する大西
大西:この地に人を惹きつけるには「ただのフィンランド式サウナ」ではダメだと思いました。全国で手に入る杉やヒノキをそのまま使うのではなく、この土地ならではの価値を生む必要がある。製材所を訪れると、端材や一枚板が無造作に置かれていました。それらは普段なら廃棄されるものですが、逆に「こうした未利用材をどう生かすか」が地域性を表現する鍵になると感じたんです。さらに工務店の青木社長から「自分たちの色が出たサウナを作ってみたい」と言われたことも大きかった。都市部ではリスク回避が優先されて挑戦は難しいですが、地元の密接な関係性があるからこそ「何かあってもすぐ対応できる」。だからこそ挑戦的な設計ができると背中を押してもらいました。

サウナ改修予定の建屋の様子
大西:達磨大師が洞窟で悟りを追求した物語を知り、サウナ体験と重ね合わせられると考えました。住職も「サウナの“ととのう”感覚は禅の修行と似ている」とおっしゃっていて、共感できました。特に面白かったのが「禅問答」です。例えば「片手で叩いたらどんな音がする?」という問い。答えは決まっておらず、自分で考え続ける過程こそ修行。この問いかけの姿勢をサウナ体験に組み込みたいと思いました。「モヤモヤさせるサウナ」という新しい方向性が生まれた瞬間です。

サウナ内で禅に取り組む
大西:製材所で偶然見つけた三角形の板を見たとき、「達磨のシルエットに見える」と直感しました。人によって見え方が変わる、その余白が禅的だと感じ、サウナの正面に配置することにしました。また、壁にはバタ材と呼ばれる端材を使い、洞窟のような質感を演出しました。さらに50年間使われずに眠っていた杉の一枚板を座面に採用。一般的には反りや熱のリスクで敬遠されがちですが、「挑戦しよう」と決めました。杉は意外にも熱を持ちにくく、座禅を組んだり寝そべったりと長く快適に過ごせる座面にぴったりだったんです。

偶然見つけた三角形の板


左:座面には50年間使われずに眠っていた杉の一枚板
右:壁にはバタ材と呼ばれる端材
大西:薪ストーブはフィンランドのNARVI社製を採用しました。電気の便利さもありますが、火の揺らぎや温度の不規則性は、このサウナの体験に不可欠だと感じたからです。換気には第二種換気を導入し、外から新鮮な空気を送り込みました。息苦しくなく、呼吸がしやすいことを大切にした設計です。そして仕上げに水風呂。地下水を利用し、深さや入りやすさにこだわりました。さらに「枯山水」を体験として加え、サウナ後に模様を描きながら心と向き合える場をつくったんです。お寺だからこそ実現できる体験だと思います。


NARVI社サウナストーブ

水風呂




「枯山水」を体験
大西:単に「入ると気持ちいい」だけで終わらせず、禅の問いかけや地域の素材を通して利用者が自分と向き合える場所にしたかった。お寺という場で、自然と合わさった独自のサウナ体験を作ることが狙いです。

大西と住職の西山さん
大西さんが「サウナ=癒し」ではなく「問いかけの場」として捉えていることでした。地域の木材や廃材に新しい命を与えながら、禅の思想を重ね合わせる姿勢には強い芯があり、お寺という場にぴったりのサウナ像が浮かんできます。
【継】では、施主である住職の西山さんにお話を伺っています。なぜサウナを作ろうと思ったのか
住職の考える地域とのつながりやサウナの役割について興味深いお話をされているのでぜひこちらもご覧ください。